新○○美術館Vol.４
『新須崎美術館』～ウィリアム・ケントリッジ「アニメーションは友達、こわくない」～の巻

1980年代末から【動くドローイング】とも呼ばれるアニメーションフィルムを制作してきたウィリアム・ケントリッジ。その映像作品は、美術を志したものには馴染みの深い木炭とパステルで描いたドローイングを部分的に描き直しながら、ドローイングの変化を一コマ毎に映画用撮影カメラで記録するという気の遠くなるような作業から生まれます。
作品の内容は、南アフリカの歴史と現代の社会状況が色濃く反映されています。アパルトヘイト（人種隔離政策）の問題を自分の痛みとして語る彼の作品は、脱西欧中心主義を訴えるポストコロニアル（植民地主義）批判と共鳴する優れた美術的実践として世界中から注目を集めるようになりました。しかし、日本人である我々（少なくとも私）には、はるか彼方アフリカの歴史や社会状況に対して、知識や情報量が乏しい為、リアリティーに欠ける部分があることは否めません。そのため、彼の作品を正しく解釈することは難しいかもしれません。では、そんなアフリカ初心者である我々が魅了されるものとは果たして何なのでしょうか？
現代のアートシーンの中での日本は、まだまだ発展途上圏を脱しきれていないのが現状です。しかし，昨今アフリカやアジア諸国の「第三世界の芸術」が、高く注目を集めています。その旗手であるケントリッジは自身の作品を【石器時代の映像制作】と称しています。その作品は超アナログかつ非効率的な手法です。映像のクオリティーに関しては近年のハリウッド映画に比べ、１００億分の１程度のものです。表現が多様化し，変化もめまぐるしいアートワールドの中で、表現→ドローイング、手法→コマ撮りというあくまでも原初的な方法は、美術本来のアカデミックな表現を彷彿させるものであり、美術史の系譜上に則った表現である可能性を内包しています。
今回の新須崎美術館「アニメーションは友達、恐くない。」の巻では上記を切り口として、彼の作品を映像、映画として捉えるのではなく、絵画の制作過程として捉え、作品テーマや社会的背景ではない絵画的な視点で、ケントリッジまみれの議論をします。画面の中での「動き」、「痕跡」、そこから生まれる「奥行き」‥‥。アニメーションですが、絵画の重要な要素を踏襲しています。平面としての可能性、古典的な手法で現代に通用する作品制作の手掛かりを探ることができるのではないでしょうか。あぁ、そういえば、今年のワールドカップは南アフリカですし‥‥。
（新○○美術館プロジェクト実行委員 佐藤淳治）

※「新○○美術館プロジェクト」とは、既存の美術史観に縛られる事のない視点で、美術史上の作家を検証し、その作品を鑑賞する座談会形式のトークイベントです。トークイベントの参加者は、現在活躍しているアーティストを中心とし、主題として取り上げた芸術家や作品について各々の解釈を提案し、議論する場としています。
このプロジェクトの目的は、インターネットや流通する図版から得た安易な情報や知識偏重の作品鑑賞ではなく、アーティストによる美術の解釈を意見交換する事で、提示された様々な価値や認識を生の情報として得ようとするものです。つまり、時代の変遷に伴って作られた既存の美術史観のみに偏らず、極めて個人的な美術史観、作家観を交えて考察することで、新たな視点を獲得し、美術そのものの本質に迫るような鑑賞ができるのではないかという試みです。また、洋の東西を問わずに、過去から現在までの作家や作品を取り上げ議論する事で、今日的な問題を提起する立場である、現代のアーティストが持っている価値観や美術史観を問う場でもあります。
＜web＞
http://shinmarumaru.com/